財産分与について
財産分与について
1.財産分与とは
財産分与とは、離婚した者の一方が他方に対して財産の分与を求めることです(民法768条1項)。
民法は夫婦別産制を原則としています(民法762条)。そのなると、夫婦間に所得格差などがある場合に、夫婦に経済的な格差が生じてしまいます。そこで、離婚に際してそのような経済的格差を是正するため、財産分与という制度が設けられています。
財産分与には、下記の3種類があります。
- ①清算的財産分与 → 夫婦が婚姻中に協力して貯めた財産の清算を目的とするもの。
- ②扶養的財産分与 → 離婚後の経済的に立ちゆかない者に対する扶養料。
- ③慰謝料的財産分与 → 相手方によって婚姻関係が破綻したことによる慰謝料請求を内容とするもの。
このうち、扶養的財産分与については,清算的財産分与や慰謝料的財産分与に比べて補充的な位置付けとなっており、これらによってもなお生活が不十分な場合に認められることになります。また、一生涯の保障というわけではなく,離婚後に相手方が安定収入を得るための一時なものです。
慰謝料的財産分与に関していえば、慰謝料請求を財産分与に含めたとしても、財産分与と慰謝料を別々に請求してもよいことになっています。また、財産分与がなされたとしても、慰謝料が含まれていないといえる場合には別途慰謝料請求をすることも妨げられません。個人的には財産分与と慰謝料を別々に請求する方が議論は整理されやすいと理解しています。
上記のとおり、扶養的財産分与と慰謝料的財産分与というのは、少し例外的な位置付けとして理解されると思います。したがいまして、以下では清算的財産分与について書いていきたいと思います。
2.財産分与の流れ
財産分与については概ね以下の流れで処理されていると理解しています。あくまで当事務所の弁護士の理解ですので、書籍、他の弁護士によっては違うかもしれません。
- ①財産分与の基準時の確定 → いつの時点で存在した財産を財産分与の対象とするかを決める。
- ②分与対象財産の確定 → 基準時に存在していた財産を開示して、分与対象財産を確定する。この際に特有財産は除くべ主張立証することになる。
- ③対象財産の評価 → 対象財産がどのくらいの価値があるのかを評価する。
- ④財産分与の割合 → 対象財産を夫婦でそれぞれどのくらいの割合で分けるのかを決定する。
- ⑤分与方法 → 金銭で分けるのか、現物で分けるのかなど分け方を決めます。
3.財産分与の基準時
財産分与の基準時については,一般的に別居開始時点とされています。というのも、財産分与は夫婦で協力した財産を分けるという目的からできた制度ですので、夫婦の協力関係が解消されたあとの財産については財産分与の対象としないとするのが自然だからです。もちろん、民法768条3項は、「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して」財産分与の方法を定めるとしているので、別居時を財産分与とするのが相当でないと考える場合には積極的にその事情を主張していくことになります。
財産分与の基準時が決まらないと,当事者においていつの時点での財産を開示すべきかわからず、審理が混乱することになります。財産分与の手続を進めるにあたって基準時を決めるのはそのためです。
4.分与対象財産の確定
原則として基準時に存在していた全ての財産が対象となります。ただし,婚姻中の財産には夫婦の協力によって獲得されたものではない特有財産に関しては財産分与の対象とされません。特有財産の例としては、結婚前から有していた財産、遺産分割や親族からの贈与などが挙げられます。特有財産性について争われる場合には、積極的にそのことを立証しないと特有財産と認めてもらえません。例えば遺産分割で手に入れたお金を自分の預金口座に入金した場合、証拠として預金通帳だけが開示されただけでは、裁判所から見れば単なる預金にすぎず、特有財産とは認めがたいところがあります。
財産分与の対象財産の種類としては以下のものがあります。財産分与をきちんと行うには、それぞれの特徴を把握して主張立証をする必要があります。
- ①不動産 → 評価の面で争いになりやすい。住宅ローンがある場合に問題になりやすい。財産分与最大の難問。
- ②預金 → 全ての預金が把握できるかが問題となる。また、子供名義の預金が財産分与の対象となるかも論点。預金化した遺産など特有財産の問題がよく出てくるのも特徴。
- ③積立型保険 → 意外と見落とされやすいので注意。
- ④自動車 → 評価の面で争いになりやすい。住宅ローンがある場合に問題になりやすい。
- ⑤株式・債権 → 相手方の保有証券を補足できるかが問題。
- ⑥退職金 → 婚姻前から勤続している場合に評価が問題となる。
- ⑦企業年金 → 厚生年金と混同されやすいが、確定拠出年金などの企業年金は財産分与の対象となる。
5.対象財産の評価について
分与対象財産が確定したら、次はその評価額が問題となります。もちろん、預金など明確である場合にはこの点は特に問題にはなりません。問題となるのは、不動産や自動車など金銭的な評価に争いがでるものです。これらについては査定書による立証や鑑定などの裁判所の立証によって明らかにする必要があります。
分与対象財産の評価をする時点は一般に裁判時(口頭弁論終結時又は審理終結時)とされています。財産分与との基準時との関係でややこしいので注意が必要です。つまり、財産分与の基準時に存在した財産を裁判時点で評価して財産分与をすることになります。
例えば、別居から裁判までの期間が相当に長い場合に,別居時にはほぼ新車だった対象財産たる自動車の価値は相当に減少しているかもしれませんが、それでも裁判時の評価額で判断されます。もちろん、民法768条3項は、「一切の事情を考慮して」と定めていますので、その間の使用態様については考慮されるかもしれません。
6.財産分与の割合
分与対象財産とその評価額が決まると夫婦が協力して作った財産が金額として浮かび上がってきます。そうなると次に問題になるのは、それを夫婦間で何対何でわけるかという問題が出てきます。
この点については,過去様々な判例などがありましたが、現在では2分の1ずつ分与するのが原則となっています。この原則は専業主婦であっても当てはまるとされています。事件処理をしている現場の感覚としても2分の1というのはほぼ実務で定着して争いがないように感じています。
7.分与方法
協議や調停によって財産分与をする場合には,当事者の意思に結論が委ねられていますので、どの財産をどのように分けるかなど当事者で詳細に決定することができます。 審判や判決の場合には,金銭支払の方法によって行われることが多いですが、金銭以外の財産の給付を命じたり、現物を共有にするなどの方法もあります。 金銭の支払以外の分与方法を望む場合には,分与方法についてもきちんと主張立証しておく必要があります。
8.財産分与と税金
財産分与はもともと獲得していた財産を2人で分けるというものですので、財産分与を受けた側には,夫婦の共有財産と比較して著しく大きい金額の分与を受けたという事情でもない限り税金は課せられません。 なお、財産分与は、離婚の効果として生じるものですので、離婚が成立していない段階で財産を移してしまうと、それは単なる贈与と見なされしまい贈与税が課税させられる可能性があります。財産分与を実際に行うのは、離婚の後の方が無難です。