婚約について
1.婚約とは
婚約とは,将来結婚するという合意(約束)です。正確にいうと、2人が誠心誠意をもって将来夫婦として生活する合意(約束)のことです。
婚約には特に形式は必要なく、理論上口頭による合意によってでも婚約は成立します。結納や婚約指輪、親族への挨拶などは婚約の要件ではありません。
実務上、婚約が成立していたか否かついては争われることが多く、婚約の成立が争点となっている裁判例は数多くあります。
確かに婚約は口頭による合意によっても成立しますが、裁判で婚約の成立が認められるためには結納、親族への挨拶、婚約指輪、結婚式、同棲、性的関係などの客観的事実が重要となってきます。これらのイベントがほとんどないという状態ではなかなか婚約の成立は認められにくいというのが実情です。
2.婚約の破棄について
婚約の破棄は、婚姻関係と異なり、届出などの手続が必要ではありません。相手方の合意や正当事由などがなくても一方的に破棄することができます。
3.婚約破棄に伴う損害賠償請求
婚約は正当な事由がなくとも一方的に破棄することができますが、正当な事由がない場合には、婚約を破棄した者は、破棄された者に対して、婚約の不当破棄として、債務不履行や不法行為に基づく損害賠償責任を負います。
また、婚約を破棄された側の者であっても、その者が婚約破棄せざるを得ない状況を作りだしたため(不当事由)、婚約破棄に至った場合には、債務不履行や不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります。婚約破棄を招来した責任があるというわけです。
どのような場合が正当事由に該当するかは、一概に判断することはできませんが、婚約破棄に特に理由がない場合、単なる心変わりの場合には婚約を破棄する正当事由があるとはいえません。婚約の相手方が婚約者以外との性的関係を持った場合や婚約者に対する暴力や暴言があった場合については正当な理由(婚約の相手方における不当事由)が認められやすいといえます。
4.慰謝料について
婚約を正当事由なく破棄すると慰謝料が認められます。慰謝料の相場としては30万円から300万円程度といわれています。
慰謝料がどのくらいの金額になるかについては、①婚約に至るまでの交際期間、②婚約後の期間、③婚約破棄の原因や経緯、④婚約破棄のタイミング、⑤年齢、⑥性交渉・妊娠・出産の有無、⑦婚約を理由とする退職等の有無、⑧婚約が周知されているか否かなどの諸要素によって決まってきます。
5.慰謝料以外の財産的損害について
婚約破棄の場合には慰謝料以外の財産的損害についても大きな争点となります。婚約によって発生した一つ一つの出費について検討し、婚約破棄による損害といえるかどうかを判断する必要があります。
この点、結婚式や新婚旅行の費用(キャンセル料など)、同居のための賃貸物件に関する費用、婚約指輪の購入代金などが財産的損害として損害賠償の対象となります。また、婚約にともなって仕事を退職するケースがありますが、退職後に婚約の不当破棄にあってしまった場合、その収入の減少分(逸失利益)についても損害賠償の対象となります。