慰謝料請求分与について
慰謝料請求について
1.離婚に伴う慰謝料請求とは
離婚に伴う慰謝料請求は,「離婚」することによって被る精神的苦痛についての損害賠償請求権のことを言います。法的な根拠は,色々な考え方はありますが、不法行為に基づく損害賠償請求権とするのが一般的です(民法709条)。離婚に伴う慰謝料請求には下記の2種類に分類されます。
- ①離婚原因そのものによる慰謝料 → 暴力や不貞行為そのものによって味わった苦痛に対する慰謝料。
- ②離婚することによって配偶者の立場を失うことによる慰謝料 → 相手の行為によって妻としての立場を失うことによる慰謝料。
裁判上では,この2種類を分類して考えることはなく,関連する一個の不法行為として取り扱うことが多いですが、慰謝料請求を理解する上ではこの2つを一緒に考えることが重要であると考えます。
2.慰謝料の認められる例
① 不貞行為
一番有名な慰謝料請求事実。立証のポイントとしては,①不貞相手、②不貞期間、③不貞行為の態様を特定することです。
興信所や探偵による調査報告書(高額なのがネック)、不貞の相手方との旅行写真、不貞行為を認めた録音テープ、不貞相手とのメール、ホテルの領収証やクレジットカードの明細などが有力な証拠となります。
不貞行為をこちらに気づかれたと察すると,シラをきったり,証拠隠滅を図る人もいますので,その点は注意が必要です。怒りにまかせて対応した結果、追求が不十分になってしまう可能性があることには留意してください。
② 暴力(DV)
これもよく出される慰謝料事実です。暴力についても証拠収集が重要になってきます。診断書やカルテ、暴力を認めた録音記録やメールなどがよく利用される証拠です。
③ その他
婚姻生活の維持に協力しないことや性交渉の拒否や性的不能などが慰謝料の理由としてよく知られているところです。
ただ、上記で述べたようなものはあくまで典型例で、慰謝料事由を全て説明するのは不可能です。経験上は,離婚を決意させるような精神的な苦痛を与える事情があったのであれば,慰謝料請求として主張していくということが多いように思います。
3.慰謝料請求が認められないケース
- ① 証拠不十分の場合
裁判で争う場合、裁判所に証拠で認定してもらわなければ慰謝料請求は認められません。 - ② 主張されている事実が慰謝料を支払わせるような事情ではない場合
単なる正確の不一致であるとか,客観的に見て些細な事情である場合には慰謝料請求が認められない場合があります。 - ③ 婚姻破綻の原因がむしろこちら側に存在する場合
こちら側にも不貞行為や暴力がある場合などが考えられます。 - ④ 損害がない場合や加害行為と損害との間の因果関係がない場合
既に多額の慰謝料が支払われているような場合や不貞行為の前から婚姻関係が破綻していた場合。
4.慰謝料額を決める要素
① 有責行為の態様(不貞行為の期間、不貞行為を主導したかどうかなど
② 精神的苦痛の程度(精神疾患、暴力による後遺症など)
③ 婚姻から婚姻破綻に至る経過(婚姻期間、同居期間、別居期間再婚可能性があるか、生活費の支払いの有無、婚姻生活における貢献度)
④ 当事者の年齢や社会的地位
⑤ 子供の有無、人数、親権のあり方
⑥ 離婚後におかれることになる環境(経済環境など)
5.第三者に対する慰謝料請求
離婚における慰謝料請求は,配偶者だけでなく,それに関与した第三者にも行うことができる場合があります。例えば、配偶者と不貞行為を行った第三者(不貞相手)や婚姻関係を破綻するように仕向けた親族などに対して損害賠償請求することが考えられます。
6.婚姻関係破綻後の不貞行為
婚姻関係が破綻した後の不貞行為について,最高裁判所8年3月26日判決は「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。」としており、その理由について、「丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となる(後記判例参照)のは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである」と述べています。
この判決は,不貞行為があったとしても不法行為責任が認められない場合を示したものですが、この判決を過信するのは禁物です。この判決にいう婚姻関係が破綻していたという事情は,簡単に認められるものではありません。別居期間などの程度によっては否定される可能性も十分にあります。夫婦関係は破綻しているから不貞をしても大丈夫と軽信して痛い目にあわないよう十分に注意した方がよいと思います。