■相談事例
相談者様は、本件依頼時30代の男性です。相手方である妻との間に小学生の子2名がいます。相談時の時点で結婚歴約12年でした。婚姻中に毎月約12万円の住宅ローンを組んで自宅不動産を購入していました。自宅不動産は立地に問題があったため、オーバーローンの物件でした。
相談者様は、年収650万円程度の収入があり、相手方もその給与はわかりませんでしたが、正社員で働いていましたので家族世帯でみたときには十分な収入がありました。しかしながら、家計の管理を相手方がしており、毎月4万円というお金を渡されるだけで、相談者様は、収入に比して苦しい生活を余儀なくされていました。また、相手方からはぞんざいに扱われ、家庭での居場所がありませんでした。
相談者様と交際関係となる女性(以下、「交際女性」と言います。)と出会い、相談者様は不倫関係になりました。そして、相手方との離婚を考えるようになり、相手方に対して離婚の申し入れをしたところ、相談者様と相手方は別居するようになり、申立人は自宅不動産を出て、交際女性とのもとで生活することになりました。
その後、交際女性が相談者様の子を妊娠していることがわかり、交際女性は子供を出産しました。そして、相談者様は、交際女性との子供を認知しました。
別居時に婚姻費用のことは取り決めておらず、それまでどおり、相談者様の給与の入る口座を相手方が管理していました。相談者様は、毎月4万円のもらいに行くという生活をしばらく続けていました。しかし、交際女性も出産のため働けくことができなくなり、生活が苦しいことから、相手方から給与口座の通帳とキャッシュカードを返却を受けましたが、その後も住宅ローンと毎月平均12万円余りの婚姻費用を支払い続けていました。
このような状況の中で、相談者様は離婚調停の申し立てをしましたが、相手方が出頭せず、調停は不成立に終わりました。また、当事務所の以外の別の弁護士に委任して事件処理を依頼しましたが、離婚する勝算を示すことができず、頼りなく感じていました。なお、相談者様が弁護士に依頼して間もなく、相手方も弁護士に依頼をしました。そこで、新たに何人かの弁護士に相談をしましたが、相談者様が有責配偶者であることから、どの弁護士からも概ね粘り強く交渉するしかないというアドバイスしかしてもらえませんでした。そのような中で、相談者様は当事務所の弁護士に相談し、その方針に希望を見出すことができたので、当事務所の弁護士に依頼することにしました。
■解決結果
1.弁護士は、相手方が同居を求めていないことから相手方が復縁を求めているわけではなく、相談者様に今後も住宅ローン及び多額の婚姻費用を負担させて、自分は負担なく自宅不動産に住み続けることが、相手方が婚姻を継続する目的であると判断しました。また、相談者様にはオーバーローンの不動産以外と実親に相手方との子供のためにかけてもらった学資保険以外に見るべき財産はなく、学資保険を含めても相談者様の総財産は債務超過にあることを相談者様の強みとし、離婚ができなければ自己破産を行うこと交渉材料に交渉を進めることにしました。自己破産になれば、第三者に自宅不動産が売却される可能性があり、それを相手方は嫌がると判断したからです。相談者様もいつまでも自分が住みもしない住宅ローンの負担をするのは納得いかなかったので、離婚が上手くいかない場合には生活を楽にするために自己破産をすることを決意していました。
2.弁護士は、受任通知を送るとともに、相談者様には交際女性との間に子供がおり、相手方との離婚する意思を固めていることから慰謝料を100万円支払うという内容の離婚条件案を提示するとともに、応じなければ債務超過を理由に自己破産などの法的整理を行う可能性があることを伝えましたが、相手方は離婚に応じませんでした。相手方が離婚条件に応じないたびに婚姻費用を切り下げていくことにしていましたので、相手方が離婚条件を拒否するたびに毎月に婚姻費用の振込額を減額していきました。相手方弁護士から婚姻費用をきちんと支払うようにとの抗議を受けましたが、婚姻費用の合意はなく、こちらが妥当と判断した金額を振り込んでいくとだけ回答しました。
3.また、相手方は相談者様との子供たちに、離婚が迫られていることを暴露してしまいました。そして、不安定になった子供たちの精神的フォローのため面会交流をするように相談者様に求めてきました。初めは面会交流に応じることにしましたが、相手方の精神を圧迫するため、相手方が離婚条件を拒否するたびにその回数や頻度を減らしていきました。
4.相手方が離婚条件を拒否し続け、婚姻費用が減額されていった結果、相手方はしびれを切らして、婚姻費用分担請求調停を起こしました。以前は裁判所に出てこなかった相手方を裁判所に引っ張り出すことに成功しました。
それに合わせてこちらからも、離婚調停と面会交流調停を申し立て、婚姻費用と併合して審理を進めることにしました。面会交流調停は相手方の間の子供との面会を行わないという申立です。相手方が自分の子供との面会にこだわっているようでしたので、離婚しなければ面会しないと伝える意図で申し立てました。また、断固たる態度を示すため、婚姻費用分担調停を起こされたのをきっかけに婚姻費用の支払を止めました。
5.婚姻費用分担調停では、相手方の収入がこちらの想定よりもかなり大きいことがわかり、相手方がそれなり自分名義で財産をため込んでいることが予測できました。そこで、財産分与になれば相談者様が相手方からかなりの分与を受けられる公算が大きくなりました。また、婚姻費用も大きな金額にならずに済みそうでした。
6.しかし、離婚調停については有責配偶者であるため、調停委員の対応は冷たく、「早く相手方が納得するような離婚条件をもってくるように」というばかりでした。財産分与を主張しているにもかかわらず、双方の財産開示にすら消極的でした。弁護士はあまりに冷淡な態度をとり続ける調停員に対して厳しく対応し続けました。弁護士が「この離婚調停でまとまらなければ自己破産すると伝えてください。」と言うと、調停委員も「そんな発言していいんですかね。」と言い返してきましたが、弁護士は「いいんですよ。そのまま伝えてください。」と伝えました。
7.このように調停員に対処しつつ、調停を続けた結果、最終的に慰謝料200万円、財産分与として自宅不動産の名義変更と住宅ローンの名義変更(相談者様は住宅ローンから解放されました。)、養育費子供一人につき2万6000円という条件で離婚が成立しました。面会交流については特に何も決めずに終わりました。また、早期離婚が一番の希望でしたので、財産分与についてはそこまで追求しませんでした。なお、相手方は交際女性についても慰謝料請求をしていましたが、あわせて調停することとし、交際女性と相手方との間には何らの債権債務がないという条項だけが設けられました。
■弁護士のコメント
かなり苛烈な方法をとったと思いますが、相談者様はこちらのペースで離婚を進めることができたととても喜んで頂きました。
交際女性との間に子供ができて認知していることから有責配偶者であることは戸籍謄本をみればすぐにわかる状態でした。もちろん、有責配偶者となれば離婚条件が厳しくなることはよく知っています。ただ、有責配偶者であることは確定してしまっているので、これ以上、不利にもならないとも考えていました。そのため、容赦なくこちらの強みを生かし、相手方の弱点を突き、ストレスを与えることに注力できました。相手方に、①自己破産により、自宅不動産がなくなるなり、引っ越しだけでなく子供たちの転校を余儀なくされたりすること、②当たり前に手に入っていた婚姻費用が手に入らなくなること、③財産分与として多額の財産を負担させられること、という3つの恐怖とストレスを与え続けた結果、無事に離婚することができました。
今回の勝因は、有責配偶者であるという時点で思考停止せずに、状況を冷静に分析して戦略的に行動したこと、裁判所の妙な圧力に屈しなかったことだと思います。