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弁護士コラム

2019年05月の投稿

最高裁判所平成31年4月26日決定-子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制の申立てが権利の濫用に当たるとされた事例

2019年5月10日  子の引渡し, 強制執行, 親権 

子の引渡しを命じる審判を債務名義とする間接強制の申立てが権利の濫用に当たるとされた最高裁判所の決定がでましたのでご報告します。

1.本件のテーマ
 子の引渡しを命ずる審判を債務名義とした間接強制決定が認められるか。

2. 事案の概要
(1)  夫(抗告人)と妻(相手方)は,平成19年6月に婚姻し,平成20年4月に長男を,平成22年10月に二男を,平成25年4月に長女をもうけた(以下,上記の子ら3名を併せて「本件子ら」という。)。
(2) 妻は,平成27年12月,夫に対し,「死にたいいやや。こどもらもすてたい。」という内容のメールを送信した。これを契機に,夫は,本件子らを連れて実家に転居し,現在まで相手方と別居している。
(3) 奈良家庭裁判所は,平成29年3月,妻の申立てに基づき,本件子らの監護者を妻と指定し,夫に対して本件子らの引渡しを命ずる審判(以下「本件審判」という。)をし、同審判は同年7月に確定した。
(4) 妻は,平成29年7月,奈良地方裁判所執行官に対し,本件審判を債務名義として,本件子らの引渡執行の申立てをした。同執行官が,夫宅を訪問し,本件子らに対して妻のもとへ行くよう促したところ,二男及び長女はこれに応じて妻に引き渡されたが,長男は,妻に引き渡されることを明確に拒絶して泣きじゃくり,呼吸困難に陥りそうになった。そのため,同執行官は,執行を続けると長男の心身に重大な悪影響を及ぼすおそれがあると判断し,長男の引渡執行を不能として終了させた。
(5) 妻は,平成29年8月,大阪地方裁判所に対し,夫及びその両親を拘束者とし,長男を被拘束者とする人身保護請求をした。長男は,同年12月,その人身保護請求事件の審問期日において,二男や長女と離れて暮らすのは嫌だが,それでも夫らのもとでの生活を続けたい旨の陳述をした。同裁判所は,長男が十分な判断能力に基づいて夫らのもとで生活したいという強固な意思を明確に表示しており,その意思は夫らからの影響によるものではなく,長男が自由意思に基づいて抗告人等のもとにとどまっていると認め,夫らによる長男の監護は人身保護法及び人身保護規則にいう拘束に当たらないとして,相手方の上記請求を棄却する判決をした。この判決は,平成30年2月に確定した。
(6)原審は,抗告人に対し,長男を相手方に引き渡すよう命ずるとともに,これを履行しないときは1日につき1万円の割合による金員を相手方に支払うよう命ずる間接強制決定をすべきものとした。

3.判決内容について
(1)  子の引渡しを命ずる審判は,家庭裁判所が,子の監護に関する処分として,一方の親の監護下にある子を他方の親の監護下に置くことが子の利益にかなうと判断し,当該子を当該他方の親の監護下に移すよう命ずるものであり,これにより子の引渡しを命ぜられた者は,子の年齢及び発達の程度その他の事情を踏まえ,子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ,合理的に必要と考えられる行為を行って,子の引渡しを実現しなければならないものである。このことは,子が引き渡されることを望まない場合であっても異ならない。したがって,子の引渡しを命ずる審判がされた場合,当該子が債権者に引き渡されることを拒絶する意思を表明していることは,直ちに当該審判を債務名義とする間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではない。
(2) しかしながら,本件においては,本件審判を債務名義とする引渡執行の際,二男及び長女が相手方に引き渡されたにもかかわらず,長男(当時9歳3箇月)については,引き渡されることを拒絶して呼吸困難に陥りそうになったため,執行を続けるとその心身に重大な悪影響を及ぼすおそれがあるとして執行不能とされた。また,人身保護請求事件の審問期日において,長男(当時9歳7箇月)は,相手方に引き渡されることを拒絶する意思を明確に表示し,その人身保護請求は,長男が抗告人等の影響を受けたものではなく自由意思に基づいて抗告人等のもとにとどまっているとして棄却された。
(3)以上の経過からすれば,現時点において,長男の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ長男の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる夫の行為は,具体的に想定することが困難というべきである。このような事情の下において,本件審判を債務名義とする間接強制決定により,夫に対して金銭の支払を命じて心理的に圧迫することによって長男の引渡しを強制することは,過酷な執行として許されないと解される。そうすると,このような決定を求める本件申立ては,権利の濫用に当たるというほかないとして、間接強制の申立を却下した。

4.コメント
 この判決は、子の引渡しの強制執行と人身保護請求で現れた事情をもとに、「長男の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ長男の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる夫の行為は,具体的に想定することが困難」という理由づけのもと妻の間接強制決定を権利の濫用として却下しています。このうち、子供が引渡しを拒絶して呼吸困難になるといった事情は特殊な事情であると思われるのですが、子供が自由意思で引渡し拒絶をすることというのはよくあるケースのように思われます。特に子が年齢的にも大きくなっているような事案では子供も自分の状況を理解して自分の意思で引渡しを拒絶することはよくあることのように思います(その意味では子供が9歳の時点での意思表示をもって自由意思に基づく拒絶の意思を認めたというのはかなり大きなことだと思います。)。この決定を呼吸困難まで起こった特殊なケースで限定的例外事例としてみるのか、子供の自由意思を広く尊重したケースとしてみるのかは今後の重要になってそうです。
 今回のケースでは、子の引渡しの強制執行と人身保護請求が前提にありましたが、そうではなく、最初から間接強制の申立を行っていた場合には同じ結論が出たのかも気になります。というのも、裁判所の手続の中で生じた事情をもって事実認定がなされているので、仮に妻側が最初から間接強制をしていれば、妻側に不利な事情というのは現れなかったわけです(妻側が直接強制を求めたことを批判しているわけではありません。)。その意味で最初から間接強制の申立がなされていた場合に同じ結論になったのかは気になります。

離婚慰謝料について-最高裁平成31年2月19日判決

2019年5月5日  慰謝料請求 

平成31年2月19日に離婚による慰謝料についての最高裁判所判決が出ましたので紹介させて頂きます。

1.本判決のテーマ
不貞相手に対して離婚したこと自体を理由とする慰謝料請求ができるのか。

2.事案の概要
(1)夫と妻は,平成6年3月,婚姻の届出をし,同年8月に長男を,平成7年10月に長女をもうけた。
(2)夫は,婚姻後,Aらと同居していたが,仕事のため帰宅しないことが多く,妻が上告人の勤務先会社に入社した平成20年12月以降は,妻と性交渉がない状態になっていた。
(3)不貞相手は,平成20年12月頃,上記勤務先会社において,妻と知り合い,平成21年6月以降,妻と不貞行為に及ぶようになった。
(4)夫は,平成22年5月頃,不貞相手と妻との不貞関係を知った。妻は,その頃,不貞相手との不貞関係を解消し,夫との同居を続けた。
(5)妻は,平成26年4月頃,長女が大学に進学したのを機に,夫と別居し,その後半年間,夫のもとに帰ることも,夫に連絡を取ることもなかった。
(6)夫は,平成26年11月頃,妻に対して,夫婦関係調整の調停を申し立て,平成27年2月25日,Aとの間で離婚の調停が成立した。

3.最高裁判所の判断(わかりやすく登場人物を夫、妻、不貞相手に読み替えています。)

(1) 夫婦の一方は,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ,本件は,夫婦間ではなく,夫婦の一方が,他方と不貞関係にあった第三者に対して,離婚に伴う慰謝料を請求するものである。
 夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが,協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。
 したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
 以上によれば,夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,不貞相手は,夫の妻であった妻と不貞行為に及んだものであるが,これが発覚した頃に妻との不貞関係は解消されており,離婚成立までの間に上記特段の事情があったことはうかがわれない。したがって,夫は,不貞相手に対し,離婚に伴う慰謝料を請求することができないというべきである。

4.弁護士のコメント
(1) まず、勘違いしないでいただきたいのは、この判決は離婚そのものを理由とする第三者(不貞相手)に対する慰謝料請求を原則として否定したものであり、不貞関係を理由とする慰謝料請求を否定したわけではありません。不法行為の消滅時効は損害と加害者と知ったときから3年です(民法724条)。今回の事例では、夫が不貞相手と不貞の存在を知ってから3年が経過しており、不貞関係を理由とする慰謝料請求権は消滅時効にかかっていました。そこで、夫側は離婚成立自体を損害と構成とすることで、損害の発生時を離婚成立時として時効の問題をクリアしようと考えていたのではないかと思われます。
(2) 本件では、原則として第三者に対する離婚そのものを理由とする慰謝料請求権を否定していますが、例外として「当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるとき」には、離婚そのものを理由とする慰謝料請求権が発生するとしています。この特段の事情については事案の集積が必要となりますが、私としては、不貞行為の存在だけでは足らず、それ以外にも夫婦関係を破たんさせるような行動が必要となるように思われ、そうなるとかなり限定的な場面でしか離婚そのものを理由とする慰謝料請求というのは認められないのではないかと考えております。
(3) また、慰謝料請求ができなくなるリスクを低減するためにも、不貞相手に対して慰謝料請求をするのであれば、離婚後3年以内と考えず、不貞関係と相手方を知ってから3年以内に法的措置をとるべきであると考えます。

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